現代ウイグル語小辞典. Concise Modern Uyghur-Japanese Dictionary. ئۇيغۇرچە-ياپونچە سۆزلۈك [PDF]

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現代ウイグル語小辞典 ‫ﻳﺎﭘﻮﻧﭽﻪ ﺳﯚﺯﻟﯜﻙ‬-‫ﺋﯘﻳﻐﯘﺭﭼﻪ‬ Concise Modern Uyghur-Japanese Dictionary















‫ﺟﯘﻥ ﺳﯘﮔﺎۋﺍﺭﺍ‬ 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所



2009 年 2 月



‫ﻳﺎﭘﻮﻧﭽﻪ ﺳﯚﺯﻟﯜﻙ‬-‫ﺋﯘﻳﻐﯘﺭﭼﻪ‬ CONCISE MODERN UYGHUR-JAPANESE DICTIONARY



‫ﺗﯜﺯﮔﯜﭼﻰ‬



‫ﺟﯘﻥ ﺳﯘﮔﺎۋﺍﺭﺍ‬ ،‫ﺗﻮﻛﻴﻮ ﭼﻪﺗﺌﻪﻝ ﺗﯩﻠﻼﺭ ﺋﯘﻧﯩﯟﯦﺮﺳﯩﺘﯧﺘﻰ‬ ‫ﺋﺎﻓﺮﯨﻘﺎ ﺗﯩﻞ ۋە ﻣﻪﺩﯨﻨﻴﻪﺕ ﺗﻪﺗﻘﯩﻘﺎﺕ ﺋﯩﻨﯩﺴﺘﯩﺘﯘﺗﻰ‬-‫ﺋﺎﺳﯩﻴﺎ‬



Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa, Tokyo University of Foreign Studies 3-11-1 Asahi-cho, Fuchu-shi Tokyo 183-8534 JAPAN URL http://www.aa.tufs.ac.jp/index_e.html Email [email protected] ‫ ﻓﯧﯟﺭﺍﻝ‬2009



優子と虎之助に



目 次 ‫ﻣﯘﻧﺪەﺭﯨﺠﻪ‬ 序言 .................................................................................................................. i 謝辞 .................................................................................................................ii 現代ウイグル語字母..................................................................................iv 現代ウイグル語の概要 .............................................................................. v 参考文献.................................................................................................... xxii 凡 例 .........................................................................................................xxv 記号略号表 .............................................................................................. xxvi 現代ウイグル語小辞典 .............................................................................. 1 日本語-現代ウイグル語索引 ............................................................. 493



序 言 ‫ﻛﯩﺮﯨﺶ ﺳﯚﺯ‬ 本書は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所において 2007 年夏に実施され た言語研修の副教材『現代ウイグル語語彙集(附日本語-現代ウイグル語索引) 』の増補 改訂版である。旧版の誤りを可能な限り正し、旧版では掲載がかなわなかった熟語を追加 エントリーし、さらに冒頭部分には文法概説を新たに盛り込んだ。結果としてボリューム が旧版より大いに増し加えられ、より信頼性の高い有用な辞書に仕上がっているものと確 信している。 本書は現代ウイグル語をひととおり読み書きするために必要な語彙を可能な限り収録 した小辞典である。収録語彙数は現代ウイグル語見出しで 16,000 語余りが収録されている。 また本書の後半には学習者の便宜のため、同一の語彙データを日本語見出しの形に整理し た索引を配置した(こちらの見出しは 21,000 語ほどである)。収録情報は現代ウイグル語 見出し語、アラビア文字綴り、品詞情報、日本語訳、熟語、同義語、類義語、漢語ならび にロシア語等起源のものについては部分的に語源も収録した。しかしながら、辞書のきわ めて重要な要素である用例は、個別データの吟味をする余裕がなかったため今回も収録を 見合わせた。本書が「辞典」ではなく「小辞典」と称しているのはひとえにその理由による。 本書の底本としては 1982 年にウルムチで刊行され、今日なお最も使いやすい辞書とし て定評のある『維漢詞典』 、ならびに同辞書を下敷きにした労作である飯沼英三『ウイグ ル語辞典』(1992)ならびに Henry G. Schwarz の An Uyghur-English Dictionary (1991)等いくつか の辞書を採用した。本書はありていにいってこれら優れた辞書の焼き直しに他ならず、歴 史用語を中心に多少クリティカルに訳語の検討を行ったものの、総体的にはオリジナルを 凌駕するものにはなっていない。また、中国では『維漢詞典』以降、 『維漢大詞典』 (2006) をはじめ重厚な辞書が複数出版されている。この点はあらかじめお断りしておきたい。本 書の意義、利点を挙げるとするならば、それは既刊の日本語対訳辞書がもはや入手困難で ある昨今の状況にあって、一定のボリュームの小辞典を日本語見出し索引を付して提供し た点にあるといえるであろう。日本語索引は小辞典の見出しと訳語を機械的に反転させた ものであり、コンピュータ処理上の制約から濁音と清音の区別も行っていない。したがっ て索引は日本語-現代ウイグル語の簡易辞書として用いるには甚だ心もとない代物では あるが、この分量のものとしては全く類例が存在しない現状に照らすならば、一定の利便 性があるものと考える。 本書が広く利用され、ひとりでも多くの方が現代ウイグル語と、その話し手である私の 友人たち-ウイグルの人々の文化・世界に親しんでいただけることを心より希望する。



2009 年 1 月















i



謝 辞 ‫ﺗﻪﺷﻪﻛﻜﯜﺭ ﻧﺎﻣﻪ‬ 本書旧版の編集、データ入力作業に当たっては以下の方々にご協力いただいた。江口幸 子、ウジェムチ、三枝遼太郎、遠山高範、根元潤、林茉以子、藤田万里子、堀部寛子、 ムカイダイス、若林侑子(敬称略)。約8ヶ月というきわめて短い作業期間のなかで語 彙集を完成することができたのは、ひとえに作業者の方々の迅速かつ誠実な作業の賜物 である。ここに記して深甚の謝意を表したい。また、言語研修の教材としては些か破格 のサイズとなった旧版の編集作業・出版にあたって、栗原浩英教授(AA 研研修専門委 員会 2006 年度委員長) 、稗田乃教授(同 2007 年度委員長)ならびに澤田英夫准教授(同 副委員長) 、町田和彦教授(同委員) 、高島淳教授(同委員)の諸先生方には、ご理解と 一方ならぬご支援とを賜った。さらに作業者の雇用など煩雑な事務処理については全面 的に高坂香さん(東京外国語大学研究協力課)のお手を煩わせた。現代ウイグル語研修 全般へのご支援もあわせ、以上の方々にはあらためて深く感謝申し上げたい。 旧版の最初の利用者となった現代ウイグル語研修の研修生の皆さんにも感謝したい。 最初に教室で配布した仮製本版から正式版のリリースまで、教室で寄せられた忌憚なき 意見、誤りの指摘は本書の質的向上に大いに資するものであった。5週間に及んだ研修 が終了してからも、研修生の皆さんからはメーリング・リスト等を通じて本書増補改訂 版の刊行に向けた修正意見、要望を多数賜った。なかでも最年長の研修生であった依田 武さん(教室でのウイグル名タイールさん)はご本人のお言葉を借りるならば「目を皿 のようにして」旧版を精査なさり、実にノート 20 頁分の訂正表をお送り下さった。編者 は依田さんご指摘の要件を余さず訂正するよう努めたが、果たしてご満足いただける出 来になっているかどうか。また同時に依田さんからは追加希望語彙のリストもいただい たのであったが、十分な作業時間が取れず結局こちらは収録することができなかった。 依田さんにはここで格別のお礼とお詫びとを申し上げたい。 旧版リリース後、以下に挙げる方々との交誼といただいたお言葉の数々は、いつ終わ るとも知れぬ本書の増補改訂作業に立ち向かう勇気を編者に与えてくれた。江上鶴也、 小名康之、小沼孝博、菅野裕臣、小松久男、新免康、武田智恵子、田中周、野田仁、堀 直、松長昭、間野英二、Aysima Mirsultan 、A. Dwyer、F. De Jong、J. A. Millward、 Muhemmetturdi Mirzehmet(敬称略)。ここに特記して感謝の意を表したい。 また本書の今般の出版に先立ち試験的にインターネットにおいて公開された電子版 に対し、小沢彰氏からは個別記載事項について有益な修正意見を賜った。さらに菅原睦 氏には本書の草稿を通覧いただき、テュルク言語学の専門研究者の立場から文法概説の 内容、辞書本体における品詞の表記、借用語の綴りをはじめとする少なからぬ点につき ご指導いただいた。そして本書の今般の出版に際しては、AA 研の呉人徳司准教授のご 高配を賜るともに、重要なご指摘を多数頂いた。深く感謝申し上げる。



ii



最後に、本書は編者の妻優子と息子の虎之助に捧げられる。歴史研究者のはしくれに 過ぎず、言語の記述やレキシコグラフィーの知識を決定的に欠く編者が本書をものすこ とができたのは、ひとえにバントゥ諸語の記述言語学を専門とする妻の献身的な助力が あってはじめて可能となったものである。旧版のデータの最終的な取りまとめ作業は、 まさに息子虎之助の誕生前後に産院にパソコンを持ち込み、妻と共同で行ったものであ った。編者にとり虎之助の産声の記憶は、末永く旧版語彙集編纂の苦闘の記憶とともに 想起されることであろう。いまだ定まった職も持たず、鬱々としがちな編者を妻は叱咤 激励し、この増補改訂作業を物心両面から支援してくれた。そして虎之助の無邪気な笑 顔とこの上なく安らかな寝顔は、日々編者にあたたかな生きがいを与え続けてくれてい る。末筆ではあるがふたりに感謝の言葉を捧げたい。本当にありがとう。



2009 年 1 月 稲城東長沼の寓居にて















iii



現代ウイグル語字母 ラテン



1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32



a b ch d e é f g gh h i j k l m n ng o ö p q r s sh t u ü w x y z zh



独立形



字尾形



字中形



字頭形



(続けない字形)



(右から続ける字形)



(左右に続ける字形)



(左に続ける字形)







‫ ﺍ‬/‫ﺋﺎ‬



[‫ﺎ ]ﯫ‬



b



beː



‫ﺏ‬



‫ﺐ‬



‫ﺒ‬



‫ﺑ‬



ʧ



ʧeː



‫چ‬



‫ﭻ‬



‫ﭽ‬



‫ﭼ‬



d



deː



‫ﺩ‬



‫ﺪ‬



ɛ



ɛː



‫ ﻩ‬/‫ﯬ‬



[ ‫ﻪ ]ﯭ‬



e







‫ ې‬/‫ﺋﯥ‬



‫ﯥ‬



[‫ﯧ]ﯸ‬



‫ﯦ‬/‫ﯸ‬



f



feː



‫ﻑ‬



‫ﻒ‬



‫ﻔ‬



‫ﻓ‬



ɡ



ɡeː



‫گ‬



‫ﮓ‬



‫ﮕ‬



‫ﮔ‬



ʁ



ʁeː



‫ﻍ‬



‫ﻎ‬



‫ﻐ‬



‫ﻏ‬



h



heː



‫ھ‬







‫ ی‬/‫ﺋﻰ‬



‫ﻬ‬ [‫ﯩ ]﯒‬



‫ھ‬



i



‫ﻬ‬ [ ‫ﯽ ]ﯺ‬



‫ﯨ‬/‫ﯻ‬



ʤ



ʤeː



‫ﺝ‬



‫ﺞ‬



‫ﺠ‬



‫ﺟ‬



k



keː



‫ﻙ‬



‫ﻚ‬



‫ﻜ‬



‫ﻛ‬



l



leː



‫ﻝ‬



‫ﻞ‬



‫ﻠ‬



‫ﻟ‬



m



meː



‫ﻡ‬



‫ﻢ‬



‫ﻤ‬



‫ﻣ‬



n



neː



‫ﻥ‬



‫ﻦ‬



‫ﻨ‬



‫ﻧ‬



ŋ



ŋeː



‫ڭ‬



‫ﯔ‬



‫ﯖ‬



‫ﯕ‬



o







‫ﻭ‬/‫ﯮ‬



[‫ﻮ ]ﯯ‬



ø



øː



‫ﯙ‬/‫ﯲ‬



‫ﯚ‬



p



peː



‫پ‬



‫ﭗ‬



‫ﭙ‬



‫ﭘ‬



q



qeː



‫ﻕ‬



‫ﻖ‬



‫ﻘ‬



‫ﻗ‬



r



reː



‫ﺭ‬



‫ﺮ‬



s



seː



‫ﺱ‬



‫ﺲ‬



‫ﺴ‬



‫ﺳ‬



ʃ



ʃeː



‫ﺵ‬



‫ﺶ‬



‫ﺸ‬



‫ﺷ‬



t



teː



‫ﺕ‬



‫ﺘ‬



‫ﺗ‬



u







‫ﯗ‬/‫ﯰ‬



‫ﺖ‬ [‫ﯘ ]ﯱ‬



y







‫ﯛ‬/‫ﯴ‬



‫ﯜ‬



w



weː



‫ۋ‬



‫ﯟ‬



χ



χeː



‫ﺥ‬



‫ﺦ‬



‫ﺨ‬



‫ﺧ‬



j



jeː



‫ﻱ‬



‫ﻲ‬



‫ﻴ‬



‫ﻳ‬



z



zeː



‫ﺯ‬



‫ﺰ‬



ʒ



ʒeː



‫ژ‬



‫ﮋ‬



IPA



文字名



a



※本書における現代ウイグル語字母の並び順は初学者の便宜を考慮して、上に示す通り通常 のラテン文字並び順(a, b, c...)に準拠した並び順を採用した。



iv



現代ウイグル語の概要



1. 概







現代ウイグル語(以下「ウイグル語」と略記)は中央ユーラシア全域で話されるテュルク諸語 のひとつであり、ウズベク語とともに東部方言チャガタイ語群に下位分類される。その話者で あるウイグル人の居住地域は中華人民共和国新疆ウイグル自治区を中心とし、隣接するカ ザフスタン、クルグズスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン、パキスタン、モンゴルをはじめ、 タジキスタン、トルコなどにも及び、その人口は新疆ウイグル自治区で 924 万人(2005 年)を 数える。 今日の中国において、ウイグル語は「中華人民共和国国家通用語言文字法」とそれに依 拠した「新疆維吾爾自治区語言文字工作条例」に基づいて、漢語と並び新疆での公用語と しての立場が保証されており、政府機関「新疆維吾爾自治区少数民族語言文字工作委員 会」の監督・指導のもと、公文書、地名表示、教育、マスメディアなど言語・文字に関わる全 ての方面での使用が義務付けられている。その一方で近年は大学教育においてウイグル語 による授業が廃止され、つづいて中等、初等教育においても同様の措置が予定されている といわれ、新疆におけるウイグル語の地位は不安定な状況にある。 言語の呼称について、一般にこの言語はウイグル語(Uyghur tili, Uyghur, 维吾尔语, Уйгурский язык)と呼ばれる。一方、言語学では古代ウイグルが使用した「古ウイグル語」を 「ウイグル語」と称することが多く、これと区別して、現在話されている言語に対しては「新ウイ グル語(New Uyghur)」「現代ウイグル語(Modern Uyghur)」の呼称が用いられることが多い。



2. 文字と音 2.1. 文字 ウイグル語の文字・正書法は 20 世紀以降、古典的なチャガタイ・トルコ語のそれから改良さ れたアラビア文字、ラテン文字、キリル文字など複数の方式が試みられ、1984 年以降、アラ ビア文字のうち不要な子音字母を統合し、母音をすべて字母として表記、かつハイフネーシ ョンを許すなど独特の正書法を持つ特殊な文字を含む変則的なアラビア文字(32 字母)が あらためて公式に採用されている。 (1) アラビア文字 現在のウイグル人の直系の先祖は、ペルシャ語と共通のアラビア文字セット(Perso-Arabic Script)を用いた中央ユーラシア共通の文章語であったチャガタイ語を書写語として使用して いた。この伝統的正書法に改変が企てられたのは、中央ユーラシアの住民が内外の要因に より「民族」の画定を推進した 20 世紀初頭のことである。この時期、新疆では出版文化の登



v



場に伴い複数のアラビア文字正書法による「民族語」の記述が試みられ、最終的には「ウイ グル」の民族名称(ならびに「ウイグル語」という言語名)とともにソ連で発明された正書法が 公式に採用された。この正書法は「ウイグル語」に存在せぬ音価を持つ字母を排除・統合し、 従来のアラビア文字正書法では書かれなかった短母音をすべて表記しており、かつ複数行 にわたる語の分かち書き(ハイフネーション)を許容するなど、極めてユニークな特徴を有す るものであった。



伝統的正書法で書かれた契約文書の一部(19 世紀末、カシュガルで作成)



このアラビア文字セット(のち開発された「新文字(yéngi yéziq:ラテン字母)」に対し「老文字 (kona yéziq)」と呼ばれる)は、中華人民共和国の成立(1949)後、数次にわたりラテン文字、 キリル文字への移行が試みられた。しかし紆余曲折を経て 1982 年、最終的にウイグル語の 公式の文字としてアラビア文字セットが完全復活を果たし現在に至る(現行のアラビア文字 字母は iii 頁を参照のこと)。 (2) ラテン文字 Aa [a] Qq [ʧ]



Bb [b] Rr [r]



Dd [d] Ss [s]



Ee [e] Tt [t]



Ff [f] Uu [u]



Gg [ɡ ] Ww [w]



Hh [χ] Xx [ʃ]



Ii Jj [i] [ʤ] Yy Zz [j] [z]



Kk [k] Ƣƣ [ʁ]



Ll [l]  [h]



Mm [m]  [q]



Nn [n] Әә [ɛ]



ng [ŋ] Ѳѳ [ø]



Oo [o] Üü [y]



Pp [p]  [ʒ]



ウイグル語ラテン字母(新文字)



ウイグル語のラテン字母(新文字)は、アラビア文字(老文字)に代わる字母として 1959 年以 降、新疆で導入が試みられた。字母の多くは旧ソ連領中央アジアで一時使用されたラテン 文字セットを取り入れているが、[ ʧ ]の音に q を、[ ʃ ]に x をあてるなど、1957 年に中国で公布 された漢語のピンイン字母の影響もみられる。「新文字」は 1960 年に公布され、その後数年 に及ぶ文字講習期間を経て、1965 年に公式使用が開始された。しかし 1966 年より 10 年間 続いた「文化大革命」により、ラテン字母への改革は事実上の中断を余儀なくされた。その 後、1976 年 8 月1日に新疆ウイグル自治区政府は旧来の「老文字」の廃止と「新文字」の全 面使用を宣言した。しかし、ウイグル人の支持を得られず「老文字」の廃止は 1979 年に撤回 され、1982 年に政府が「ウイグル・カザフ老文字の全面的使用に関する決議」を打ち出すに 及び、「新文字」は公式に使用される文字としての立場を失い現在に至る。なお、今日インタ ーネットなどで広く用いられ、本書でも採用した「ウイグルコンピュータ文字 ( UKY: Uyghur kompyutér yéziqi )」は新文字の字母のうちやや特殊な字母 ƣ, , , ѳ,  などを一般字母 gh,



vi



h, q, ö, zh で表記し、かつピンイン字母の影響で当てられた q, x を ch, sh にするなどの改良が 試みられている。 Aa [a] ng [ŋ]



Bb [b] Oo [o]



Chch [ʧ] Öö [ø]



Dd [d] Pp [p]



Ee [ɛ] Qq [q]



Éé [e] Rr [r]



Ff [f] Ss [s]



Gg Ghgh [ɡ ] [ʁ] Shsh Tt [ʃ] [t]



Hh [h] Uu [u]



Ii [i] Üü [y]



Jj [ʤ] Ww [w]



Kk [k] Xx [χ]



Ll [l] Yy [j]



Mm [m] Zz [z]



Nn [n] Zhzh [ʒ]



ウイグルコンピュータ文字(UKY)



(3) キリル文字 Aа [a] Мм [m] Шш [ʃ]



Әә Бб Вв Гг Ғғ Дд Ее [ ɛ ] [ b ] [ w ] [ɡ ] [ ʁ ] [ d ] [ e ] Нн Ңң Оо Өө Пп Рр Сс [n] [ŋ] [o] [ø] [p] [r] [s] Щщ ъ ы ь Ээ Юю Яя [ ʃʧ ] [e ] [ ju ] [ ja ]



Ёё [ jo ] Тт [t]



Жж Зз [ʤ] [z] Уу Үү [u] [y]



Ии [i] Фф [f]



Йй [j] Хх [χ]



Кк [k] Һһ [h]



Ққ [q] Цц [ ts ]



Лл [l] Чч [ʧ]



ウイグル語キリル字母



キリル文字はロシア(ソ連)の影響のもと、1930 年代に中央アジアの各民族語の文字として採 用され、以後、中央アジア諸国で広く使用されている。今日、カザフスタン共和国をはじめと する中央アジア諸国には、一定数のウイグル人が居住しており、ウイグル語での教育、出版、 放送が独自に行われているが、そこではキリル文字が用いられている。新疆でも 1950 年代 のいわゆる「中ソ蜜月」時代にキリル文字の採用がウイグル語に対して試みられたものの、フ ルシチョフの「スターリン批判」に端を発する中ソ関係の冷却化によって、ウイグル語の文字 は一転してラテン文字(上述の「新文字」)化へと向かうこととなった。



2.2. 音 (1)母音 母音は以下の 8 つである。母音は前舌と後舌に大別される(母音調和の項参照)。 前舌 後舌



i[i]



é[e]



e[ɛ] a[a]



ü[y] u[u]



ö[ø] o[o]



(2)子音 子音は以下の通り。子音は無声と有声に大別される(子音の調和規則の項参照) 。 無声 有声



ch [ ʧ ], f [ f ], h [ h ], k [ k ], p [ p ], q[ q ], s [ s ], sh [ ʃ ], t [ t ], x [ χ ] b[ b ], d[ d ], g[ɡ ], gh[ ʁ ], j[ ʤ ], l[ l ], m[ m ], n[ n ], ng[ ŋ ], r[ r ], w[ w ], y[ j ], z[z ], zh[ ʒ ]



vii



(3)表記と音の隔たり 母音 i は中舌の[ ɨ ]で発音されることが多く、特に q, gh, x の前後ではその傾向が顕著 であるといわれる(例:qiz [qɨz], qir [qɨr]など)。また q は l や無声子音(ch, f, h, k, p, q, s, sh, t, x)の前で x で発音されることが多い(例:waqti (